田川基成写真展 – 五島

主催 : 地域写真芸術振興協会

助成 ： ARTS for the Future ! 2
（コロナ禍を乗り越えるための
文化芸術活動の充実支援事業）

後援 : 五島 海のシルクロード芸術祭実行委員会 | 特定非営利活動法人BaRaKa
　

五島市東町のSlow Cafeたゆたう。内のギャラリースペースにて、9月3日から25日まで、田川基成写真展『五島』を開催します。
田川基成は長崎県西海市の離島・松島出身の写真作家で、2017年頃より長崎の海をテーマに作品制作を続けています。
2020年に刊行された写真集『見果てぬ海』(赤々舎)では、日本写真協会新人賞を受賞しています。たゆたう。のギャラリーでは、昨年12月に開催された写真展見「果てぬ海」に続く個展となります。「見果てぬ海」は長崎の海全域をテーマに撮影された作品でしたが、今回の展示『五島』では、写真家が2017年から撮影を続けてきた五島列島の写真に焦点を絞り、未発表の作品を含め約15点の大判プリントで構成されます。
大判プリントならでは質感をお楽しみ頂ければと思います。

展示ステートメント

小さな頃から、海の向こうに五島列島を眺めていた。

 私は西海市に浮かぶ松島という離島で育った。松島の西の海岸からは、沖に遠く五島が連なって見える。最短距離で約40キロ。雨や霞が出た日には見えなくなるが、晴れるとはっきりその姿を望むことができる。もし海がベタ凪なら、自分で船を漕ぎ五島まで辿り着けるかもしれない。しかし沖で海が荒れれば、自力で帰ってくることはできないだろう。近いようで遠い。そんな不確かな距離を間に挟み、私の中に五島はずっと存在していた。

海の向こうに初めて渡ったのは30歳を過ぎてからだった。2017年の暮れ、太古丸に乗って上五島に向かった。小値賀島から船を乗り継いで野崎島へ。私は港から野首の高台まで歩いて登り、冬雲が浮かぶ東の方角に目を向けた。紺碧の海の先を見つめると、そこには自分が育った松島がたしかに見えた。今、子どもの頃からずっと眺めていたあの海の向こう、五島列島に自分がいる。それは風景が反転してしまった世界、あるいはパラレルワールドに渡ってきたような不思議な体験だった。

福江島を初めて訪れたのは2019年の春のことだ。上五島から続く隆起沈降したリアス式地形が島を貫く一方で、ここには平地があり水田も多かった。島の周囲には大きな三つの火山が合体した珍しい地理になっている。島内を少し周っただけで、海と山が織りなすダイナミックな地形と、水にも恵まれたこの島の豊かさを十分に感じることができた。そして縄文時代から続く人間の営み、独特な祭事、海を渡ってきた移民や潜伏キリシタンの人々の歴史が今も色濃く残されている。こんなすごい島が日本にあったとは。私にとって福江島は、上五島というパラレルワールドのさらに奥に現れた幻の国のようにも思えた。もう何度も福江島を訪れているが、その印象は今でも変わることがない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　― 田川基成

PLOFILE

写真家
田川基成 / Motonari Tagawa

1985年生まれ、西海市大瀬戸町の離島・松島出身。北海道大学農学部森林科学科卒業。
東京で編集者・記者を経て写真家となる。自身のルーツと、これまでに暮らしてきた土地や旅の経験を通し、移民と文化、土地と記憶、信仰などをテーマに作品を制作している。千葉県に暮らすイスラム教徒の移民家族の5年間を写した「ジャシム一家」で第20回三木淳賞。2020年秋、故郷・長崎の海を巡る写真集『見果てぬ海』(赤々舎)を出版した。同作で2022年日本写真協会新人賞を受賞。福岡県糸島市在住。

受賞
2022 日本写真協会新人賞
2018 第20回三木淳賞

個展
2022 「見果てぬ海」伊都郷土美術館 (福岡県糸島市)
2021 「NAGASAKI SEASCAPES」Alt_Medium (東京)
2021 「見果てぬ海」Slow Cafe たゆたう。 (五島市)
2021 「見果てぬ海」GALLERY ESSE (札幌市)
2021  「見果てぬ海」コクラヤギャラリー (長崎市)
2021 「見果てぬ海」ニコンプラザ大阪
2020 「見果てぬ海」ニコンプラザ東京
2020 「Vernacular Churches」Alt_Medium (東京)
2018 「ジャシム一家」新宿/大阪ニコンサロン
2018 「ジャシム一家」札幌市教育文化会館　ほか